ビジネス英語での交渉(条件提示・自社の主張)
交渉(negotiation)は、会議と同様に重要なビジネスシーンです。交渉に際して通訳を使う場合もあります。通訳は、意思疎通の訓練をしていますので、発した言葉を正確に相手に伝えることはできるでしょう。しかし、本人が直接、相手に英語で話しかけた方が、本人の熱い想いが伝わりやすいので、望む結果が出やすいとの指摘もあります。交渉で使う英語表現にもパターンがありますので、想定問答を準備しておくことで、よりスムーズに会話を進めることができるでしょう。ここでは、「①交渉の開始」、「②条件提示」、「③自社の主張」の3つに分けて解説します。
交渉の開始
交渉を始めるときには、主に次のような表現で開始の合図を出します。
Now, let’s get going.
では、はじめましょう。
Let’s get started.
はじめましょう。
「get going」は、「動き出す」「軌道に乗る」などの意味です。
「get started」は、「はじめる」という意味です。「Let’s get it started.」とも言えます。この場合、「it」はこれから始めようとする交渉や会議などを指しています。「Let’s start.」あるいは「Let’s begin.」と言っても問題はありませんが、会議や交渉などを始めるときに「始めましょう」と呼びかけるようなときは、「Let’s get started.」の方がよく使われます。
なお、相手に「どうぞ先にお話しください」と言いたい場合には、「Please go ahead.」を使うとよいでしょう。
交渉前に、その日に取り上げる話題を確認するには、次のような表現が使われます。
May I run through the points to be discussed?
話し合う内容を一通り確認しておきましょうか?
I think we should go over the points to be discussed today.
今日話し合う内容を確認しておいた方が良いと思います。
「~しましょうか?」と相手に提案をするときは、「Shall we~?」あるいは「Shall I~?」を使います。
簡単な打ち合わせが済んだら、いよいよ本題に入ります。そのときには、次のような表現が使われます。
Let’s get down to business.
本題に入りましょう。
「business」は、日本語でも「ビジネス」とカタカナ表記されるほど定着していますが、「商取引」「商売」「事業」といった意味です。ここでは、「課題」「やる(話し合う)べき事柄」という意味で使われています。
ちなみに、「business」は「(個人的な)事柄」という意味でも使われます。例えば「It's your business, not mine.」は「それはあなたの問題で、私は関係ありません」といった意味です。
なお、「business」には、「会社」という意味もあります。「大企業」は「big business」、「中小企業」は「small and medium-sized business」、「小企業」は、「small business」です。また、「open/close a business」は「開業(開店)/廃業(閉店)する」という意味です。ついでに言うと、「business person」は、「サラリーマン」ではなく「実業家」を意味するので、注意してください。
「get down to bedrock」は、「核心に入る」ことを意味します。「bedrock」は、「根幹・根底」という意味です。
以下のような表現を使えば、具体的な話題を示すこともできます。
Let’s start with the issue of personnel management.
人事管理のことから始めましょう。
「issue」は、「問題・課題」などの意味です。 「business、item、problem、task」などに置き換えても同じような意味になります。
「personnel management」は「人事管理・人事マネジメント」です。「personnel」は、「人事の」という形容詞です。名詞として使う場合は「職員・社員」「人事課」という意味になります。「職員」を示す表現としては、「staff」や「employee」、「labor」、「worker」などがあります。ただし、それぞれ微妙にニュアンスが違います。「staff」は、そこで働く人をひとまとめにした表現です。「staff」は複数の社員を指していますので、「a staff」とは言いません。また、「stuff (材料・原料)」と混同しないようにしましょう。「employee」は「従業員」のことで、どこかの企業に雇われている人を指します。その反意語は、「employer」で「雇用主」を意味しています。「labor」はどちらかと言うと、「作業労働者」や「肉体労働者」といったニュアンスがあります。「worker」は、仕事をする人全般を指しています。
「personnel」と似た単語に「personal」があります。これは「個人の・私的な」という意味ですね。また、発音も、「personnel」は[pə̀ːrsənél]と後ろの「ネ」の部分を強く発音し、「personal」は[pə́ːrsənəl]と「パ」の部分を強く発音するというように全く違いますので、要注意です。
「management」は、「管理」のほか「経営」「統制」という意味もあります。また、「経営陣」「管理職」を指すこともあります。なお、会社組織の中で「top management」は「上級管理者層(会長、社長、CEOなど)」、「middle management」は「中級管理者層(部長、課長など)」、「lower management」は「下級管理者層(現場の監督者など)」を指しています。
特に優先度が高い話題を伝える場合は、次のような表現が使われます。
It’s very important for us to improve employees’ education.
当社にとって、社員教育の改善は、非常に重要です。
Frankly speaking, we are looking for an excellent lecturer.
率直に申し上げて、当社は優秀な講師を求めています。
「important」は、「重要な」という意味です。「very」が付いていますので「非常に重要」であることを示しています。なお、「very important」は、「crucial」「pivotal」「imperative」「vital」に置き換えることも可能です。
「improve」は「改善する・改良する」という意味です。「improve」の名詞形である「improvement」を使って、「make an improvement」と言うこともできます。なお、「improve」を「ameliorate」に置き換えも同様の意味を表すことができます。「業務改善」と言う場合は、「business improvement」「operation improvement」などといった表現があります。
ところで、トヨタ自動車発祥の生産方式は「カイゼン」という名前で知られています。しかし、英語では「Kaizen」というように日本語の発音のまま表記されます。「カイゼン」は、従業員同士で知恵を出し合って、生産現場の課題を1つ1つ着実に克服する方式のことです。「改善(improvement)」だけでは、その真意が必ずしも伝わらないので、あえて英語圏においても「Kaizen」が使われるようになったというわけです。
他に英語化した日本語としては、「Tsunami(津波)」「Keiretsu(系列)」「Karoshi(過労死)」「Tycoon(大君=大ボス)」などがあります。
「employee」は前述の通り、「従業員・被雇用者」を意味し、反意語は「employer(雇用主)」です。
「education」は「教育」。ちなみに「研修」と言う場合は、「training」が使われます。「training for new employees」は「新入社員研修」のことです。
「frankly」は「率直に」といった意味です。
条件提示
交渉では、互いに自社の条件を提示し、納得できる条件は受け入れ、実行が難しいと思えば、断るか妥協点を探ることになります。 まず、自社の条件を提示する表現としては、以下のものがあります。
We’d like to propose a revision of the contract conditions.
当社としては、契約条件の見直しについてご提案したいと思っています。
Here’s what we’d like to suggest.
これが、ご提案内容です。
「propose」は「提案する」。「propose」は動詞なので、結婚を申し込む「プロポーズ」は「proposal」と言うべきです。「suggest」も同じような意味がありますが、「参考までに伝える」というニュアンスがあります。
「revision」はもともと「改定・修正」という意味です。例えば「ルールの見直し(改定)」は、「revision of the rules」などと表現できます。「amendment」にも「改正」という意味があります。
「contract」は「契約」という意味のポピュラーな表現です。「契約する」は「make a contract」です。「contract」だけで「契約する」という意味も持っていますが、動詞で使うときは「(病気に)かかる」という意味になる場合もあります。例えば、「She had contracted malaria.」は「彼女はマラリアに罹ったことがある」です。
自社の主張
自社の主張を示す表現には、次のものがあります。
What matters is the quality of human resources.
重要なことは、人材の質です。
The rest is of secondary importance.
それ以外は、二の次です。
「quality」は「質」。「質と量」は「quality and quantity」です。ちなみに、日本で始まった「品質管理」は、英語圏では「quality control」と呼ばれています。
「human resources」は「人材・人的資源」の意味です。
「rest」は、「休み・休息」という意味もありますが、「the rest of~」は「~の残り・残りの~」といった意味です。例えば「the rest of her life」は、「彼女の余生(残りの人生)」のことです。
「secondary importance」は「二の次のこと・二次的な問題・副次的な問題」という意味です。つまり、一番重要なことではない、という意味ですね。
相手の指摘を一応、認めたうえで意見を言う場合は、次のような表現があります。
That’s a good point. But I think we should take the long view.
それは、ごもっともなご指摘です。しかし、長期的な視点に立つ必要があると思います。
Admittedly, cost reduction is important. But quality of service takes precedence over such a feature now.
確かに、コスト削減は重要です。しかし、今はそうしたことよりサービスの質が優先されます。
「take the long view」は「長期的な視点に立つ」という意味です。「view」の代わりに「perspective」も使えます。「middle and long-term perspective」は「中長期的な視点」のことです。
「cost reduction」は「コスト削減」です。「cost cutting」とも言います。
「take precedence over~」は、「~にまさる」という意味です。もちろん、一般的に「~を優先する」を表す際には、「give priority to~」が使われています。
We should give top priority to our business performance.
当社は、業績を最優先にすべきだ。
The CEO tends to put humanity above skill and technique of a worker.
CEOは、従業員の技能や技術より人間性を優先する傾向がある。
「feature」は「特性・特徴」のことです。